の先を知らない - SHINN side -


 出逢いは偶然。それとも必然?
 一瞬の邂逅に心を奪われた。

 MS格納庫にて ―― シンはぼんやりと自分の手のひらを見つめていた。

「お前、何やってんだ?」

 ひょこっと後ろから顔を出して声を掛けて来たのは友人のヨウラン。
 驚きと共にトリップしていた脳が一気に覚醒する。

「よよよよよ、ヨウラン!驚かすなっ」

 どもりながら後ろを振り返ってみるとヨウランは楽しそうな笑みを浮かべていた。

「な、なんだよ?」

 疑問符を飛ばしながら問い掛けると ――

「あの子、胸でかそうだったなァ」

 とんでもない言葉が返って来る。

「なッ!?」

 あの子という台詞が誰を指しているのかはすぐにわかった。
 あれは先日買い物に行ったときのこと。
 路地から大通りに面する曲がり角でシンは可愛らしい少女と衝突。
 その子を支えようとして思いきり胸を掴んでしまったのだ。
 勿論、ワザとではないが事実は変わらない。
 からかわれて頭にかっと血が昇った。

「お、おれは別にッ」

「ハハッ!照れるなよ」

 弁解をしようとすればする程ヨウランは楽しそうだ。
 シンはくっそッ!と、半ばやけになりながら目の前の友を睨み付けた。
 すると流石にからかい過ぎた。と、思い直したのかヨウランは苦笑しつつ手を上げる。

「また逢えると良いな」

 そうして今度は柔らかく微笑し、シンの肩を軽く叩いてくれた。

 『また逢える』

 その言葉がシンの中で強く響く。
 名前も知らない、けど、自分は彼女にもう一度逢いたいと思っていた。
 芽吹き始めたこの感情をなんと呼べばいいのか ――
 シンには判らなかった。

 そしてその少女と既に戦場で再会していることも彼はまだ知らない。



END


2005.01.18