心配性!
うつ伏せ寝は心臓に負担を掛けると聞いて、スティングはとても驚いた。
自分の身近な人物でそういう寝方をする奴を知っていたから。
夜も更ける頃。シャワーを浴びて、寝る準備が万全と言う形でアウルが布団に潜り込むと、室内にけたたましくチャイムが鳴り響いた。
(こんな時間に誰だよ…)
デジタル時計を睨みつけた後アウルは深夜の来訪者を無視してしまうおう、と、布団を頭まで被る。でも、いつまで経っても鳴り止まない呼び出し音に根負けして布団を撥ね退けると、乱暴な足取りで扉に近付いた。
「あーもう!誰だよッ?」
「なんでオマエ早く開けねェんだよ!」
ロックを解除して、開閉ボタンを押すと、開口いちばん苛立ったように言い放った。
でも、来訪者も負けじとアウルを怒鳴りつけてくる。
「なんだぁ…スティングか。どうしたんだよ?」
来訪者がスティングだったとわかるとアウルの機嫌は少し浮上した。
そして "こんな時間の何の用だろう?" 軽く首を傾げる。
「アウル…」
「な、なに?」
アウルが頭上に疑問を飛ばしていると、スティングはいつになく真剣な顔のままズズイッと部屋に押し入った。
至近距離で自分を見つめてくるスティングに "やっぱ格好良いなぁ" とアウルの思考が一瞬激しく明後日のことを考える。
「オマエさ…うつ伏せで寝るだろ。あれ、止めたほうが良いぜ」
「はぁ?」
しかしスティングはアウルの考えなど当然露知らずで真剣に話を続けた。
「うつ伏せ寝は心臓を圧迫してよくねぇらしいから」
やっぱりシリアス顔で言われて、アウルはぽかーん…と、口を開けたまま呆けてしまった。
「え?もしかして用事ってそれを言いに来ただけ…とか?」
「そうだけど…何だよ」
アウルの問い掛けに "変か?" とスティングは真顔で聞いてくる。
彼が言っている "うつ伏せ寝は心臓を圧迫する" と言うことは勿論急に生死に関わることではないし多少身体に悪い程度のものだろう。
(し、心配性過ぎ…!)
ある意味彼らし過ぎる行動に他人を気遣うことが大嫌い (と言うかそんな気を回すのが嫌い) なアウルはくらくらとしてしまった。
何をどうしたらこんな風に優しくなれるのだろう。
(素でやるもんねぇ…スティングの凄いところか)
スティングの優しさは理解出来ない。自分は其処まで優しくないから。
でも、それでも、それを知って真っ先に自分を思い出し、心配してくれたスティングの行動をアウルは嬉しいと感じた。
「ハハッ…スティングって心配性過ぎ」
「あぁ?別にそんなことねぇよ。普通だ!普通!」
くすくすと楽しそうに笑うアウルにスティングは眉を顰めながら反論する。自覚がないところも可笑しな話だ。
「は〜い!わかったよ。心配してくれてありがと♪」
首に腕を回して彼を引き寄せ、お礼の気持ちを込めて頬っぺたにちゅっと口付ける。
突然のキスに目の前の顔はきょとん…とした後そっぽを向いて "ホントにわかってんのか" と、ぼやいた。
"わかってるよぉ" とアウルが訴えて、スティングを見つめていると耳の辺りがほんのり赤く染まる。
その姿をアウルは可愛い♪と思うのだった。
「ちゃんと直せよ」
「はーい♪」
良い子のお返事をしたアウルだったがうつ伏せ寝は中々直らなかった。
スティングの心配はまだまだ続きそうである。