籠
の鳥
其処は閉ざされた空間。研究所の窓から青い空を見上げて 『僕たちは籠の中にいる鳥みたいだ…』 とクロトが言った。
自分の意思では飛べない。羽を切られた訳でもないのに、薬という拘束具に縛られて、動けない。無理に飛び立とうとすれば無様な姿で地べたに墜ちるだろう。
「確かに言えてんな。なぁ、知ってか?家庭で飼われる鳥は羽を切られることも多いらしいぜ」
クロトの言葉に、目を通していた本を閉じて、オルガが顔を上げた。
「…?何でそんなことすんの?」
オルガの口から発せられたのは同意。そしてソファに寝転がっていたシャニの知らない知識。首を傾げ、問い掛けると、シャニの疑問に、クロトが答えてくれた。
「危険から遠ざける為の行為だってさ」
クロトは眉を顰めて答える。窓の外を見上げるのは止めた様だった。
「……好意?」
シャニの頭上には益々疑問符が増えてしまう。『鳥は危険を回避する為に飛ぶんじゃないの?』 と、シャニの思考が混乱する。
「ハッ…何言ってやがる。人間のエゴ以外の何物でもないだろ」
脳みそがショートして、耳からプスプスと灰色の煙が出そうになっているシャニの頭を乱暴な手付きで撫ぜて、オルガはぶっきら棒に言った。
「……かわいそう」
シャニは、くしゃくしゃになった髪を適当に直して、ポツリと呟く。
「ばぁーか。何言っての?羽を切られる前に逃げなかったんだ。自業自得だよ」
クロトは、何処か苛々したように、言い放った。籠の中の鳥と自分たちを重ねてしまうと、とても虚しくて、とても哀しくて、心底憎たらしく思えた。
感情が澱んでしまう。
「ま・本当に可哀相なのは、そんなちっぽけな生き物を捕らえて、満足している人間かもな」
オルガは嘲笑う。人間たちのほうを。
「それって変じゃない?人間もちっぽけな生き物だよぉ」
シャニの疑問は益々増えていく。シャニが言った二度目の問い掛けに、オルガは瞠目し、クロトはもう一度窓の外を見上げた。
「ああ、そうだな……。皆、ちっぽけだ。傲慢だよな」
「……僕たちはどっちなんだろうね…」
己よりも無力な者を捕らえて、満足している人間側なのか?
青空に羽ばたくことを夢見て、地べたに墜ちる鳥側なのか?
答えなんてきっと永遠に出せない。
END
毎度・毎度暗い話が多くてすみません。
鳥を飼育されている方に喧嘩を売っているワケではありません…!(汗)
2005.06.30
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