界 と 宙 で 一 等 の キ ラ メ キ


 眩いばかりのイルミネーション。
 色彩は大体赤と緑に金と白。たまに青も混じっているか。
 盛大に飾り付けられた電飾だらけの大きなもみの木を前に、シャニは立ち尽くしていた。

 こんなにせずともキレイなものはキレイなのに…。

 ぼんやりとそう思った。



 ☆      ☆       ☆       ☆



「さみ…」

 呟きと白い息を吐き、オルガはふと立ち止まった。
 後ろに連れの気配がない。
 皆、何処か浮かれ気味の賑やかな人込みを抜けてきたので、気付かなかった。
 口の中で、チッと舌打ちして、踵を返す。
 フードにふわふわのファー付きコートを着たコバルトグリーンの髪を持つ恋人を探すために。



「シャニ!」

 探し人 (と言うより迷子か) は存外早く見つけることが出来た。
 きっとキラキラした場所にいるだろうと、予想をつけていたからかもしれない。

「なにやってんだ」

 問い掛ければ、気怠げなアメジストの片目がこちらを見る。
 はぐれんじゃねーよ。心配するだろバカ、と額を軽く小突いてやると、
 コッツンされた額を無言でさすさすと擦って、シャニはオルガの手を握った。

「あン?」

 オルガが、なんだ、と思った瞬間。
 シャニはオルガを連れて、その場から逃げ出すように駆け出していたのだった。



 ☆      ☆       ☆       ☆



「お、おいシャニッ!!」

 本当にどうしたのか。
 何事なのかと思う。

 けれど前を走るシャニは応えない。
 振り向かない。

 大通りを抜ける頃、諦めて、好きにさせることにした。

 シャニの突飛な行動など日常茶飯事の慣れっこだ。

 ただひとつ。
 右手にある紙袋の中の白い箱の中身が無事だろうか、と言うことだけ、ちょっぴり気になっていた。



 人気のない路地裏まで来て、シャニはようやく立ち止まった。
 街灯さえほとんどない道だった。
 今日は、冬空にしては珍しく雲が少なくて月も出ていたため、そこまで暗いとは思わなかったが。

「あち…」

 いくら強化された肉体と言えども全力疾走すればそれなりに疲れる。
 息も弾む。
 今度は先程呟いたことと全く正反対のセリフをぼやいて、手の甲で額を拭い、呼吸を整えた。

「…で、何事だ?」
「…目がチカチカしたぁ」
「ああ、イルミネーションか。派手だからな」

 でもシャニはキレイなものやキラキラしたものは好きな筈だ。

「…あれは嫌い」
「あれ?」

 重ねられるシャニの言葉が何を差しているのか、わからなくて聞き返した。

「キレイなもんは何もなくてもキレイだよぉ」

 シャニは月明りを受けてきらめくオルガの金糸を指差す。
 要領を得ないシャニの言葉では、彼の機嫌を損ねたものの正体は明確にはわからないが、
 何に憤りを感じているのかは、なんとなく理解出来た。
 緩いウエーブ掛かった髪に手を置き、引き寄せる。

「もう大丈夫だろ」

 頭と背中を宥めるように撫でて、胸元に抱き込む。
 シャニは、きつく目を閉じて、甘えるようにオルガの胸に頬を擦り付けた。

「うん〜……なんかチカチカし過ぎなんだよ。うざいのぉ…」
「そっかそっか。なら、早く帰ろうぜ」
「うん……」

 ひとしきりすりすりと甘えて、気分が浮上したらしい。
 ようやく顔を上げたシャニに見えるようにオルガは紙袋を掲げてみせた。
 まだほんの少し拗ねているようだった表情が見る見るうちに晴れていく。

「オレね〜。いちごー」
「おう。サンタもいるぜ」
「あれは甘過ぎだからクロトにあげるぅー」
「ハハッ、俺もあの砂糖のカタマリはおっさんにやろうと思ってたんだ」

 寒い真冬の夜道、月明りを受けて、金色の髪と、アメジストとゴールドのオッドアイがきらめいていた。




END


シャニの一等のきらめきはオルガさんである。

毎年恒例のオルシャニでメリクリ小話。
久し振りにシャニたんシリーズじゃないノーマルなシャニを書いたら
うっかり普段のシャニの口調が思い出せなくて困ったりしました (こらこら)

07.12.24