片想い
君は僕ではない人へ微笑みかける。
その横顔をいつも見ていた。
あいつと君が付き合っていることを知ったのはほんの些細な出来事から。
その日、君とあいつは喧嘩をした。
はじめはいつものことだと思った。
どうせすぐに仲直りするだろうって。
でも、見てしまった。
あいつを引き止めようとした君と、その手を煩わしそうに撥ね退けたあいつを。
あいつの後姿が見えなくなると君は泣いていた。
肩を震わせ、声を殺して、涙を必死で堪えて…。
長い睫毛を濡らして頬を伝わった一滴の水晶がとても美しかったのを、今でも鮮明に憶えている。
その時、気付いてしまった。
君はあいつが好きなんだってことと、自分の気持ちに。
自分ではない違う誰かを追う君を見ているのは辛かった。苦しかった。悔しかった。
それでも想いを棄てることは出来なくて、君を放っておくことも出来なくて、僕はあいつに全てを話した。
『泣いてたんだよ!』
あいつはもの凄く驚いた後、直に君の許へ行って、その後2人は恋人同士になった
ねぇ?
もしもあの時、君を抱きしめに行ったのがあいつじゃなくて僕だったら――
君はどうしてた?
僕を見てくれた?
あの時の選択が正しかったのかどうかが、僕は今でも解らない。
「クロト〜!」
わからないんだけど…
「クロトってば聞いてんの?」
感情が表に出るようになった君を見て、本当に良かった、と思う。
いつも気持ちを封じ込めてしまう君の感情を、引き出したのは、あいつなんだ。
「うっさいなぁ!聴こえてるよ」
「おい、先行くぞ」
「あ、オルガ」
出撃前のいつもの光景。
「もうっ!クロト、ちゃんと返事しろよ」
不満そうに頬を膨らます君を見て苦笑が洩れた。
「うん、ゴメンね」
ギュッと抱きしめると嬉そうな表情に変わる。
扉の先に居たオルガには少し睨まれた。
「早く行こ?」
差し出された手のひらをギュッと握る。
「シャニ…」
「ん?」
振り返る君にいつも伝える。
「好きだよ」
「オレもクロトが好きだよ」
返ってくるふわりとした柔らかい微笑みと、嘘偽りのない言葉。
「うん、知ってる」
おなじようにふわりと微笑み返す。
君の "好き" が、
僕の欲しい "好き" じゃないことが
ほんの少しだけ淋しかった。