腕 - かいな -
シャニの寝相はすこぶる悪い。
朝起きたら足があった筈の位置に頭があることも多く "何をどうしたらそうなるんだ" と、思わず聞きたくなってしまう程だ。
そんな彼の隣で眠ったら…?
「ぐッ!」
腹部の辺りにどかっと衝撃を受けて、オルガは目を覚ました。
こほこほと咳き込みながら身体を少し起こす。
ズキズキと痛む腹の上に視線を移動させると、其処にはシャニの足が乗っかっていた。
「――…ッ!シャニ!」
小さくため息をついた後シャニの足を横に退かせる。
名前を呼ぶと、とろん…としたアメジストと琥珀の瞳がオルガに向けられた。
「なぁに?」
「 "何?" じゃねーだろ?蹴るなって…痛ェんだから」
何が起こったかまったく理解していないシャニは、きょとん…としたままアクア色の瞳を見つめる。
オルガはシャニの足をぺしぺしと叩きながらもう片方の手で腹部を擦っていた。
オルガの様子をぽけ〜っと見つめて、シャニは首を傾げる。
そして瞬時…とはお世辞にも言えないが、のんびり屋の彼にしては、かなり画期的なスピードで状況を理解したようで、もそもそと身体を起こすと、オルガの手の上からお腹を擦った。
「ごめん。痛かった?」
「まぁ、それなりにはな…」
シャニの手の温もりを少し嬉しく感じながらオルガは苦笑する。
「一緒に寝るのいやになった?」
シャニが不安そうに問い掛けると、オルガは首を軽く左右に振る。
「バァーカ…流石にもう慣れた」
オルガは先程と違って楽しそうに笑いながらシャニの頭を軽く小突いた。
「ほら」
両腕を広げて、華奢な身体を抱きしめる。
そのままころん、とベッドに寝転がるとシャニが不思議そうな顔をしていた。
その不思議そうな視線に気付いたオルガだったが、その時は敢えて何も話さず "おやすみ" とだけ言うと、シャニの額に軽く口付けをして、瞳を閉じた。
オルガが眠る体勢になってしまったので、シャニもそれ以上は何も聞く気になれず彼の腕の中で瞳を閉じた。
◆◇ ◆◇◆ ◇◆
翌朝。シャニはオルガの両腕の中にきちんと収まっていてとても驚いたとか。
そして其れからと言うものシャニは好んでオルガの腕に抱かれて眠るようになった。
そのためこの日以来、シャニの蹴りでオルガが夜中に目を覚ますことも
足があった筈の位置に頭があることも
ベッドから転げ落ちることもなくなったと言う。