ヒーリング .....スティアウ

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 ずるい、とか
 汚い、とか
 弱い、とか
 そんな自分を曝け出すのが嫌だった
 信じられるものなど何もなく
 ただ弱い部分なんて消えてしまえばいい、と強く強く願い、望みながら
 ずっと気を張り詰めて過ごしていた。

 「お前さ、そんな風に生きてて疲れないか?」

 けれど
 ぶしつけに言われた言葉を聞いて、張り詰めていた糸がプチンと途切れる。

 「疲れたら力抜けよ」

 自分よりも少し高い目線
 自分よりも少し大きな手
 優しい表情 (かお) で微笑って、上から降って来た手のひらがよしよしと頭を撫でる。
 一瞬その腕に縋りつきそうになって、ハッと我に返る。血の気が引いた。

 「ち、力なんか抜いたら誰が支えてくれるんだよ。
  ぼくは冷たい壁になんか寄り掛からないからな!」

 支えてくれるモノなんて何にもないのに、と声に生らない言葉が心の中でのみ響く。
 目の前の人物は琥珀色の瞳を驚いたように瞬いて、
 少し考えるような素振りを見せると、突然ぼくの腕を掴んで来た。

 「あっ、え…?なんだよっ!」
 「頑張れなくなったら支えてやるよ」
 「え…?」

 「壁は嫌なんだろう?」

 オレは壁じゃないから良いだろう、とそいつは微笑む。

 「1人で頑張らなくても良いってことだ」

 他の奴が相手なら ‘何ふざけてんだ’ って腕を振り解けたと思う。
 でもスティングがくれた言葉は心にそっと波紋を作って、頑なになっていた心に優しく浸透していった。
 だから腕を振り解こうなんて考えは綺麗さっぱり消えてしまった。
 身体中から力が抜けてぺたんと床にへたり込む。

 「気張りすぎは良くねぇぞ」

 へたり込んだぼくを見て ‘仕方ねぇな’ って笑いながら
 そいつは弱いところばかり突いて来る。
 うー…と唸りながら支えてくれた腕にしがみ付くと
 あったかい手のひらがもう一度ぼくの頭を撫でた。

 「なあ、アウル。オマエは1人じゃないからな」

 そして優しい声がぼくの心に届いた。



 *** あとがき
 スティングは面倒見が良くて優しいイメージです。お兄ちゃんって感じ?
 アウルはちょっとプライドが高くて強がりのイメージです。次男って感じ?















 擦れ違うこころ .....スティ←アウ

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 アーモリーワンのZAFT軍事施設に忍び込みMSを強奪
 情報に無かったザフトの新型に追われながら、
 スティングたちは辛うじて母艦に戻ってくることが出来た。

 「アウル!」

 そしてガーティー・ルーにスティングの怒声が響き渡った。

 「なに!でかい声ださなくても聞こえてるよ」

 怒鳴られたアウルは怒りを露わにしている彼と視線を合わせないようあさってを眺め、
 億劫そうに応えた。
 さらにアウルがそのまま自室に戻ろうと床を蹴ったので、
 スティングは慌ててその細い腕を捕まえる。

 「はあ、お前…ステラにちゃんと謝っとけよ」

 心を落ち着かせて、きつくならないように諭せば、アクア色の瞳が鋭い視線を寄越してきた。
 そもそもアウルが不機嫌なのもステラにきつく当たるのも彼が彼女を気遣うからなのだ。
 だが当の本人が、スティングはそれに気付いていないから事態は悪化の方向にしか進まない。

 「うっさいな!ちゃんと帰って来れたんだから結果オーライだって言っただろ」

 一刻も早くスティングから離れたくて、彼の口から自分以外の人物の名前を聞きたくなくて、
 捕まれている腕を振り解こうとしたが拘束の力は益々強まるばかりだ。

 「お前な…!いい加減にっ!」
 「いたっ…痛ッ!

 アウルが逃げようとしていることに気付いて、もう片方の腕も掴む。
 自分よりも一回り小さな身体を乱暴に壁へと押さえ付けた。
 すると途端、アウルが泣きそうな声で痛みを訴えてきた。

 「え…?」

 そんなにきつく握っているだろうか、と思いながらも
 拘束を緩めるワケにはいかなかった。
 今此処でこの手を離したらアウルは確実に逃げるだろう。

 「謝れよ。あいつ泣いてたぞ。何ならオレも一緒に行ってやるから」
 「い、嫌だ!!」

 優しく言われると余計に自分が惨めな気分になる。
 俯いていた顔を勢いよく上げて、スティングの提案を力一杯拒む。

 「アウル…」
 「もう離せ!離せってば!スティングの馬鹿!」

 アウルは半ば自棄になりながら罵声を吐き捨てると、その場から逃げ出した。

 「アウル!」

 アウルの背を追うようにスティングの声が響いたが、聞こえない振りをして自室に飛び込む。
 後ろ手で扉のロックをかけると、身体の力がカクンと抜けた。
 ずるずるとその場にへたり込む。
 膝を抱えて呟いた。

 「スティングの馬鹿…」

 先程の言葉をもう一度口に出すと頬に一滴の雫が伝わった。


 いつも言えない。伝わらない…
 こんなにこんなに好きなのに ――



 *** あとがき
 やきもちを伝えれるほど素直にはなれない。















 彩り .....アウル

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 よくよく思い返してみると、
 ぼくに関するものや周囲のものは‘あおい’ものが多かった

 踏みしめている地球という星も
 ステラが好きだという大海原も
 スティングが乱暴に撫ぜてくれる己の髪も
 ネオから渡されたダサい軍服 (改造しちゃったけど) も
 強奪した己の機体も
 そしてその全てを映す己の瞳も…
 全部青かった

 けど今は違う
 目に映る世界は‘あかい’

 つい先刻視界に飛び込んできた空は、海は、あんなにも青かったのに…

 (なんだろ、これ。真っ赤だ…)

 自分に何が起きたのか ――
 何故こんなにも世界が赤いのか ――

 ぼくには理解できなかった

 ただこの色は敵対している軍を彷彿させる色でひどく腹が立つ

 だから今は
 いつもこの青を透して見ていたあの色が見たい

 秋を彩る黄葉の色と
 春のあたたかい陽の色を ――

 スティング、ステラ…
 あの2人の色が見たかった



 *** あとがき
 残る命散る命のアウルです…。
 アニメのときもですが、小説版のスティングとステラを想うアウルのほうがよりせつなさ満載で泣きました…。















 無情のあお .....スティング

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 ―― アビスの遭難ポイントは座標…

 艦内に無情にも響き渡る ‘その言葉’ に対して何を言っているんだと思った
 支えてくれる兵達の腕を振り解き、甲板に出る
 空には、攻撃や迎撃を受けて、大破していくMA
 海には、濛々と灰色の煙を噴き出し、沈んでいく艦船

 (アビスが居ねぇ…)

 オレはアビスの姿を確認出来なかった
 人間の視力で確認できる範囲なんて高が知れているが、
 アウルを見つけられない、その現実に酷く焦燥を感じる

 「アウル……」

 掠れた声でぽつりと呟く
 その名前を口に出した瞬間 ―― 背筋が凍えるような感覚に襲われ、
 膝の力が抜けてしまった
 その場にペタリとへたり込む

 「アウル…」

 あいつが居ない

 あおい海にも
 あおい空にも
 何処にも ――

 見る見るうちに滲んでいく戦闘の光景と、
 遠くで起こっている出来事のように微かに聞こえる爆音が、
 オレの思考を麻痺させていく

 「あ、ぁぁ…!アウル!アウルー…ッ!!」

 まるでその言葉以外の言葉を知らないかのように
 オレはあいつの名前を呼び続けた

 でも
 いつも
 スティングって嬉しそうに答えてくれたアウルの明るい声は届かなかった



 *** あとがき
 あの艦内放送を聞いたとき、ばっと顔を上げたスティングは、どんな気持ちがしたんだろう、と思いながら















 遠い未来を夢見てる .....シンステ

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 真夏の残暑も厳しい9月1日
 またひとつ大人になる
 愛らしくあどけないステラの面影を‘昨日’に置き去りに
 おれはひとり‘明日’に進む

 でも、
 あのときの君が明日ね、って微笑って言ってくれたから
 沢山の数え切れない明日を重ねて、
 いつの日か
 君が待つ、あったかくてやさしい世界に旅立つよ

 その日を支えに‘今日’を生きてる



 *** あとがき
 シンに昨日を貰ったステラとステラに明日を貰ったシン
 シンの誕生日ちょこっと過ぎてしまいましたが (汗)
 種デスの最終回を見たときからずっと書きたかったものです。











  .....シンステ

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 血塗れの腕 - かいな - と知りながら
 それでも君に手を伸ばす

 その柔らかい頬を赤い軌跡で穢しても
 君のぬくもりをたしかめたい

 手を伸ばさずにはいられない



 *** あとがき
 シンステでもドラクォのリュニナでもどちらにも見えるように書いたもの (ドラクォに上げたものとは少しだけ違いますが)
 伸ばしちゃ駄目と思っていても手を伸ばさずにいられない。
 そんなシンの葛藤に、優しさにステラはどれだけ救われたか。











 硝子細工に触れるみたいに .....シンステ

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 壊れ物を扱うときのように震える手にそっと触れる

 血塗れでも大丈夫

 わたしに伸ばされたあなたの手はこんなにも優しい

 それにほんとうに血塗れなのはあなたじゃなく、
 人間 - ひと - を踏み外したわたしのほうだから



 *** あとがき
 上から連作です。今度はシン←ステラ版。













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