そのに映りたい


 知りたい
 触れたい
 わかりたい

 君のことが誰よりも好きだから



 待機室の隅で音楽を聴いているシャニを凝視する。

 最近気付いたことがある。
 僕はシャニのことをよく知らない。

 まぁもちろん。全く知らないってワケじゃない。

 まずシャニは左右の目の色が違う。
 琥珀色とアメジスト。
 両方とも綺麗なんだけど本人はその瞳を嫌ってる。
 (気持ちが抑えきれずにうっかり寝込みを襲って、その瞳の色を知ったとき ‘変わってんね’ と素直に感想を述べたら握り拳で顔面を殴られた事がある)

 好きな音楽はガシャガシャと煩い感じのやつ。
 (僕には耳障りにしか思えない、とか言ったらそのゲームの音が耳障り、としかめっ面で答えられた事がある)

 三度の飯よりも昼寝が好きで放っておくといつでもどこでも眠っちゃう。
 (少し前に通路で寝ちゃっててオルガに回収されてたっけ?)

 あとは猫の様に気紛れ。本当はすごく淋しがり屋。

 あ、あとひとつ。
 シャニはオルガと恋人同士だ。
 (これは出来れば知りたくなかったけど…)

 ほらね。両手の指の本数で足りるほどしか彼を知らない。
 オルガはきっともっと色んなシャニを知っている。

 そう考えるとちょっと悔しい気がした。

 悔しかったからシャニをソファまで引っ張ってきて、その隣に腰を掛け、ぴとっと引っ付いてみる。
 触れば、傍にいれば、もっともっとシャニのことが解る様な気がした。

 「……クロトぉ?なに?」
 「ただ引っ付いてるだけだよ」

 不思議そうに首を傾げながらシャニは片方のイヤホンを外した。
 シャニの意識がこっちを向いたことが嬉しくて、
 口許に笑みを浮かべると、先程よりも強く抱きついた。

 「変なクロト…」

 シャニはやっぱり不思議そうな顔をしてしょーがないなって感じで僕の頭を撫でてくれた。
 その手のひらが温かくて、少しこそばゆかった。



 少しの間倖せに浸っていた僕だけどオルガが部屋に帰ってきた。
 眉間に皺を寄せて僕とシャニを見る。

 「…何やってんだよ。お前ら?」
 「うっさいな!べつに良いだろ」
 「あーなんかクロトが引っ付いてる〜」

 僕とシャニが同時に答えると、オルガはまた眉間の皺を深くしたけど
 興味を無くしたように空いていた椅子に腰を掛けると、いつものように読書をし始めた。
 ったく毎日毎日よく飽きないな。
 そんなことを考えながら不意にシャニの顔を見上げると、アメジストの瞳が読書をしてるオルガを見つめていた。

 ああ、僕はこれが嫌いだ。
 胸が鷲掴みされたみたくギュってなる。

 シャニはいつもオルガを目で追う。
 視界に映っていないと不安みたい。



 シャニ…

 シャニ…

 僕のほうも見てよ



 自分では気付かないまま抱きしめている腕に力がこもる。

 「―― い、痛い!」

 シャニの苦痛の声が耳に届いて、僕はハッとした。

 「ご、ごめん!…シャニ、大丈夫?」

 慌てて腕を放して、うーと唸っているシャニの顔を覗き込む。
 シャニは腕捲りをして、僕が両腕で抱きついていた右腕を見ていた。
 そこにはくっきりと朱色の痕。

 …うわ、僕そんなに力入れてたのかよ。

 「…ホントごめ…」
 「クロトってちっちゃいくせに馬鹿力だよね」

 白い腕にくっきりとついた痛々しい朱に血の気が引いていくのを感じながら
 もう一度謝罪しようとした僕の声をシャニの声が遮る。

 って待ってよ!
 ちっちゃいって何だ!

 思わず心の中で叫んでしまう。
 シャニは僕の顔を見て、とても楽しそうにくすくすと笑った。
 どうやら心の想いが表情にも出ていたらしい

 「だって本当の事じゃん?」

 可愛い、と言いながら頭を撫でるシャニに流石にカチンときてしまう。

 「う、うっさい!…いつかシャニを追い抜かすよ!」
 「あれぇ?そうなの〜?」

 シャニの手を軽く払い除けて言い返すものの
 全然本気にとってないって感じで頬っぺたをくすぐられた。
 これって完璧子供扱いってやつじゃん?
 い、いくらシャニでもムカつくって!

 とうとう僕の怒りが頂点に達した。

「もうっ シャニ!」
「え  ん、っ …ん…」

 がしっと頬に手を添えて (いや、がしっなんだから半ば掴み掛かっていたんだと思う)  目の前のシャニの唇に自分の唇を重ねる。
 びくっとシャニの肩が跳ねた。でも離してあげない。
 本格的に抵抗される前に唇を離し、ぱっとソファを乗り越えて扉のほうに向かう。

 「絶対に追い抜かすからね!」
 「…く、くろと?」
 「わかった!」
 「う、うん…」

 頬を赤く染めて呆気に取られているシャニを一気に捲くし立てる。
 シャニが勢いに圧されて数回ほど頷いたのを確認して、僕は待機室を後にした。

 「クロト…」

 その後のシャニは自分の唇を指先でなぞると、
 もう一度僕の名前を呟き、耳まで真っ赤になったという。
 でもその真実を僕は知る由もなかった。



 ねえ、シャニ
 ぼくはね
 いつかいつか必ず
 君を、あいつを追い抜かすよ

 だからその時は、そのアメジストと琥珀の眸にぼくを映して欲しいんだ





 まけ


 翌日。シャニは訓練を休んだ。
 おっさんの話によると、とても動ける状態じゃないらしい。
 初めはハテナと疑問符を頭上に飛ばしたけど、その話の後にオルガに逢って理由がわかった。
 ああ、そっか。昨日待機室に途中からオルガも居たんだった。
 (僕はすっかり忘れてたけど)
 思いっきり殺気のこもった目で睨み付けられたのは言うまでもなくて、
 ムカついたので、僕はあっかんべーとしてやった。
 そんな目で見たって僕は知らないよ!
 シャニを好きって気持ちは僕だって負けないんだからね。



END


書いたのがかなり前なのですが (04.09.18って書いてあった) フォルダを漁っていたら出てきて、
あら!クロシャニだわ。MOE!と自分で思ったので再UPしてみました (笑)

再up : 07.05.12