小
さ な
証
俺たちは人間なんだよ。
生きてる証なんてひとつもないし
誰にも認めてもらえないけど…
戦場に居る時は生きてるって実感できる。
噎せ返るような硝煙の臭い。
他人を傷つけ、肉を切り裂き、生温かい鮮血を浴びて…
『…あぁ、まだ生きてる』
けどコックピットから降りると、其処は現実の世界。
生きているのか、死んでいるのか、自分では解らない。
大体生きてるってなんだ?
呼吸をしていること?
心臓が動いていること?
誰かを感じれること?
生きてるって実感したいのに
俺には生きてるコトがどういうコトかすら解らない。
コックピットは安心する。
ここに居て、安心なんて感じる俺はきっともう駄目なんだろう、と思う…。
コックピットから出るのが恐い。
ずっとここに居ようかなって考えてると、必ずアイツが俺を迎えに来た。
きっと今日も迎えに来るね。
* * *
自分の身体を抱きしめるようにして、コックピットで眠っていると、突然通信が入った。
目を擦りながら確認してみると、カラミティからの通信。
『シャニ!』
回線を繋ぐと聞き慣れたオルガの声。
また来たね。
なんか今日はいつもより怒ってるみたい…。
「…なに?」
『‘なに’じゃねぇーよ。まぁた其処に居る…さっさと出て来い』
気怠げに問いかければ、やっぱり怒った声で返答が返ってきた。
え、出て来いって ―― ココに居ちゃいけないのかな…?
無言で通信画面を見つめていると、
オルガは俺の考えているコトが解ったって感じで、小さくため息をついた。
『…あー…とりあえずコックピット開けろ』
言われたとおりにすると、すでにカラミティから降りてたオルガは、フォビドゥンのコックピットに入ってきた。
「お前がいつまでも其処に居たら整備班の奴等も困るだろ?」
縮こまってる俺の身体を抱き上げて、オルガは俺を連れて外へ出ようとする。
「…っ!」
小さく拒絶の声を上げると、慌ててオルガの腕を振り解いて、元の位置に戻った。
外には出たくない!
外の世界は恐いじゃん!
外に出れば俺たちのコトを変な目で見る奴等ばっかり…
誰も俺たちのコトを人間として扱ってもくれない。
「シャニ…」
「や、やだ…っ!」
呆れたように名前を呼ばれ、腕を掴まれた。
それをさっきと同じように振り解こうとしたのに、今度はビクともしない。
「――っ!…オルガ!」
力を入れて振り解こうとしたけど駄目だった。
放してって目で訴えてみてもオルガはやっぱり俺の腕を放してはくれなかった。
叫ぶように名前を言い放つと、オルガは掴んでいた腕を勢いよく引っ張って、オレの身体を抱きしめた。
「なんで…!」
耳元で小さく聞き慣れた声が響く。
「なんでこんなとこに居んだよ。‘俺が居る場所’より、お前は‘ここ’のほうが良いのか?」
声が震えてて、泣いてるのかと思った。
ゆっくりと顔を上げ、視界に映ったのは、泣いている訳じゃないけど哀しそうな表情をしたオルガ。
胸がツキツキと痛んで、オルガの身体をぎゅうと抱きしめ返した。
「…ゴメンなさい」
「良いよ」
消え入りそうなほど小さな声で謝ると、オルガはふわっと優しく微笑みかけてくれた。
抱っこされたまま、コックピットの外へ連れ出される。
外へ連れ出されたのに、さっきとは違って、恐いなんて少しも感じなかった。
その代わりに、抱かかえてくれる腕が、とても温かいと感じた。
***
部屋の前まで辿り着き、すとんと下ろされる。
「ありがと…」
小さくお礼を言って部屋に入ろうとしたら、オルガは俺の腕を掴んで引き止めた。
「シャニは外が恐いのか?」
「……うん…」
突然問いかけられて、頭上にハテナを飛ばした。
真剣に聞かれてるから真剣に応えなきゃって思って、しばらく考えた。
出した結論は『恐い』
肯定を表してコクンと首を縦に振ると、オルガは困ったような顔をして、さっきみたいにぎゅうと俺を抱きしめてくれた。
「俺が居ても?」
「え…?」
もう1度、投げ掛けられた質問に、瞳を瞬く。
「俺が居ても恐い?」
息が出来ないくらいオレの身体を強く抱きしめて、オルガは問いかけてくる。
苦しくて眉根を寄せてると、抱きしめてる腕が震えてることに気付いた。
ああ、そっか…。
きっと恐いのは俺だけじゃないよね。
オルガもクロトも一緒だよね。
これからも外はきっと恐い。
けど…
「恐くないよ…」
広い背中を力一杯抱きしめ返して応えると、そっと優しいくちづけが降ってきた。
* * *
生きてくことは俺たちにとって苦しいこと
それでも生にしがみ付いてしまうのは、
だって一緒に生きたいんだ
倖せになりたいんだ
だから一緒に探そうね?
見つけようね?
貴方と共に生きてきた
小さな証が欲しいから ――
END
昔のお話をお倉だし
2003.08.29
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