font-size 

  ひとすじの光
 何も見えない。
 この眼は、何も映し出さない。
 光さえ感じることの出来ない眼だ。


     * * *


「…ゆんゆん。真っ暗こわくない?」
 まるで泣き出す寸でのような声で、螢惑が言った。
 その言葉を聞き、最近じゃすっかり忘れちまったことを思い出す…。

 オレの眼は、生まれたときから何も映し出さなかった。
 でも、人間の体っつーのは不思議なもんだ。
 苦労が無かったワケじゃねえ、それでもその状況に順応し、まあ、なんとかやってこれた。
 母ちゃんやアニキもいろいろ助けてくれたからな(親父はなーんもしてくれなかった気がすっけど…)。
 そんで後々心眼を会得したオレは、どんな状況も把握出来るようになり、またそれに対応出来るようにもなった。

 そして同時に、ガキの頃感じていた一抹の淋しさを忘れちまってた。

 声や言葉には人の本質が滲み出る。
 それがわかれば十分だ。
 だから心眼を会得する前でも、ものが見えないことや人の表情が伺えないことに‘不安’を感じることは無かった。
 ただ光を感じれねぇことは、淋しいと感じていた。
 まあ、ガキだったっつーのもあるんだろうけどよ。

 いくら空を仰いでも――…
 お天道様の色はわからねぇ。

 それが無性に淋しかったな。

 ただ今は違う。
 オレには、いや、オレにしか見えないもんがある。

「ゆんゆん」

 みじけぇ腕をめいっぱい伸ばして、パンダみてぇな名前でオレを呼ぶ螢惑。
 螢惑を見ると、眼の奥で何かがかちっと光り、すっと細い線みたいなもんが射し込んだ。

 それはオレにしか見えないひとすじの光――…

 軽い体をひょいと抱き上げる。
 鋭い双眸が(無意識の内なんだろうが)嬉しそうに綻ぶ。
 つられて、こっちの口許まで緩んじまう。あー駄目だ。可愛い奴。

 なあ、螢惑。真っ暗は恐くねえよ。
 オレにも見える光をお前がくれたから――…


END


ほたるはゆんゆんが見つけた光なのです。
いとおしむものが出来ると人は強くなるといいますが、ゆんゆんってまさにそういうタイプかな、と思いまして。
もちろん弟たちもそういう存在で、でもそういういとおしむ存在の中でほたるは特別なんだろうな、と思っていたりです。
庵曽新たちが‘慈しむ’で、ほたるは‘愛しむ’って感じです。
漢字一文字違うだけで、こうニュアンスが違うというか……ってこういう説明は難しいな (苦笑)

2005.09.19