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血
子供の頃からずっと自分が嫌いだったと思う。 名前と、無償の愛情を与えてくれた母。 その唯一無二の存在を奪った漢。 そいつと同じ血が、オレの身体の中には流れていたから…。 ひとつ脈打つ度に、忌まわしい血が、身体中を駆け巡る。 そんな風に考える度に、自分が気持ち悪いと思った。 気持ち悪くて、気持ち悪くて、身体の中にあるモノを、全部吐き出してしまいたい、と嘔吐した。 怪我をしたとき、ぼたぼたと滴る鮮血を見て、これも全部流し尽くしてしまいたい、と思った。 今考えるとなんて愚かな行為。 オレがおかしげなことをする度に、辰伶が口煩く、止めに来た。 どうしてオレに構うのか――あの時はよくわからなかった…。 ただしばらくして気付いた。 辰伶に怒られると、おかしくなっていたオレの思考は、正常に働き出すみたい。 うざい、とかうるさい、とか思うんだ。 感情が戻ってくる。 まさか、その為にあいつがオレのところに来ていたとは思えないけど、オレは辰伶が居るときは、確かにおかしくならなかった。 辰伶はオレの異母兄で、あの漢の息子だ。 半分だけオレとおんなじ…。 母さまが殺された原因のひとつであり、オレと相反する水の使い手であり、大嫌いだった。 はじめはね…。今は反対に好きだと思う。 けど "好き" は不味かった。 オレの好きは、親愛の情なんていう生易しいレベルで収まらない。 困ってしまう。 だって兄弟だし。 きんしんそーかんはいけないことでしょう…。 現実問題、辰伶は、無明歳刑流の当主でもあるからずっと一緒にはいられない。 それにオレが死んじゃったとき、地獄にいくのか、天国にいくのか、わかんないけど、母さまに合わす顔がない。 やっぱり困ってしまう。 (ずっと一緒なんてありえないよね…) ひとりになると、そんなことばかりが、頭の中をぐるぐる、ぐちゃぐちゃと、掻き回した。 いつか、お前に 「さよなら」 って言われたら、オレは哀しくて、また壊れちゃうよ。 悩んで、悩んで、言われる前に言うことにした。 壬生の外に行くって話して 「ばいばい」 って手を振った。 あいつは驚いて、悲痛な顔で "行くな!" って引き止めてくれた。 その言葉を聞いたときは、急に目頭が熱くなって、不覚にも泣きそうになってしまった。 多分嬉しかったんだと思う。 でも 「さよなら」 しなきゃいけないのは、変わらない。 だから最後にオレからくちづけて、あいつの腕を振り解いた。 きっと離れてもずっと好きだよ。 オレとお前は、断ち切ることの出来ない絶対的な "もの" で、繋がっているんだから――…。 そんな風に考えると、あんなにも憎らしかった "血" が、少し好きになれそうな気がした。 END
ほたるの独白辰ほた。 戻 |