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合わせ鏡
鏡は自分の姿を映す。 人の心も自分の姿を映す。 お前なんか大嫌いだ、と心が叫ぶから互いに憎み合っているのかもしれない。 好きになれないのかもしれない。 では、もしもどちらかが妥協したら? 『好き』 と告げたら如何なるだろう? ほたるは降り頻る霧雨の中で、ありえない、と、己の考えを自嘲した。 オレが影ならお前は光で、お前が必要でオレは不必要なのだ。これは絶対に変わることのない事実だ。 互いに認め合うこと等ありえない。 「水なんて大嫌い…」 言葉にしてみると、大嫌いな異母兄の姿が脳裏に浮かんだ。 ぽつりと呟いた言葉は誰の耳にも届くことなく空に消えたけれど、一度浮かんだ兄の姿は、ほたるの脳裏から中々消えてくれなかった。 「ッ…ウザいッ、消えて!」 纏わりつく水滴をひどく煩わしく感じる。 誰に言っているのかわからない科白が零れ、ほたるの手から灼熱の炎が生み出される。 ほたるの周囲にあった霧雨はじゅっと音をたてて瞬く間に蒸発した。 この水滴のように、早く、早く、この気持ちも消してしまわなければ――。 |