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海底
相対するもの。例えば、白と黒。 例えば、真実と偽り。 例えば、過去と未来。 例えば、海と太陽。 どれにも総じて言えることは、ただ相手が遠い。受け入れることの出来ない存在。 雨雲は天にいる太陽を隠してしまうし、太陽の対は大地だろう、と言うものも居る。 ――違う。あいつと対するものはオレだ。 そもそも大地に対しているのは空だろう。太陽じゃない。 どれだけ焦がれても 触れることは出来ないが、 太陽が手を差し伸べてくれることはあった。 深い淵に、暗い海底に意識が堕ちているとき、ゆらゆらと微かな光が届く。 海面を透り抜けて届くこれは、オレを救い上げる光だ。 「辰伶、辰伶ってば…」 馴染み深い声に、ふっと意識が覚醒した。 ゆさゆさと体を揺さぶられ、すっと目を開くと、眼前に広がるあたたかい色。心が落ち着く。 夢の中では、気持ちが淀んでいたのに、それが無くなった。 「…起きた?」 どこか嬉しそうにオレの顔を覗き込んでくる螢惑をぎゅっと抱き寄せる。 「…え?何?」 驚きに瞬く琥珀の瞳。その上に、そっとくちづけた。 「…ッ、しんれいっ」 わたわたと身動ぎしてくる四肢を押さえ、動きを封じる。手を着き、螢惑を組み敷く体勢になった。 「おはよう、螢惑」 暢気に朝の挨拶をすると、螢惑はとろんとした表情でオレを見上げて、細い両腕を差し伸べてきた。 可愛い、螢惑―― その身に半分だけおなじ血を宿す、オレの片割れ その身に陽光を纏い、火霊の精を従える、オレと対するもの 例え、相反する性質でもそんなことは関係ない。 お前がオレを受け入れてくれる。オレを求めてくれる。 オレが螢惑の傍に居たいと思う。螢惑を欲しいと思う。 だから手放してなんてやらない。 END |