「辰伶って頭コチコチでホントうざいよね…。見ててムカつく」
「な、なんだと?!」

 螢惑は時々ワケもなく俺に喧嘩を吹っ掛けてくる。
 理由はいつも唐突かつ、くだらないことばかりだ。
 どうやら俺のやること、なすこと、いうこと、全て気に入らないらしい。だが、それはお互い様だ。
 こっちはギリギリまで怒らないように善処しているというのに、いつも徒労で終わってしまう。
 結局、最後はいつも喧嘩という名の死合いに発展する。
 まったくアイツも少しは‘我慢’を覚えれば良いんだ。
 幾度注意しても俺の言うことなんて素直に聞きやしないが。
 でも、思いきり喧嘩をした後は妙に清々しい気分になる。
 傷だらけのくせに (否、俺にも言えるが) 螢惑も微笑っていることが多い。

 過去の確執からか、俺達は互いに言葉で伝える術を知らない。
 妙な話ではあるが喧嘩は一種の和解 (?) の仕方なのかもしれない。

 死合いが終わり、己の身体を見ると、今日受けたダメージは少なかったようだ。
 代わりに螢惑の腕からはボタボタと血が滴っていたが―― …。
 そういえば舞曲水で思いきり斬り付けたな…と思い出す。
 傷口を曝したままと言うのも如何かと思ったので、放っておいたら何もしなさそうな螢惑の身体を引き寄せた。

「いたたたっ」
「貴様から吹っ掛けてきたんだろう!我慢しろッ!」

 消毒液を掛けると、子供のように‘痛い’と騒ぐから‘喧しい’と跳ね付けた。
 螢惑は不満そうに頬を膨らませたが、手当ては大人しく受けてくれた。

 自分で傷付けて、手当てもしてやるなんて、妙な話だ。
 だが、どうでもいいと思っている奴を相手に喧嘩なんてしないしな。

 なあ、螢惑。俺はお前には絶対に負けん。
 だから貴様も強く在れよ―― …。



2005.02.19

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