触って。
 でも優しくしなくていい。

 優しいのは好きだけど 触れるときの優しさは駄目。

 壊れ物を扱うように触らないで、お願い。

 そんな風に触られると、自分が弱い生き物になってしまったようで、どーしていいかわかんない。

 …やだ、やめて。

 思いを伝えようと口を開く。
 声は、なぜか震えていた。

 辰伶は、愉しげに笑って
「止めない」
 と、短く答えた。

 どうして、と聞くと
「お前が自分の弱さに気付かないからだ」
 と、返って来た。

 どういう意味かわかんない。
 オレはべつに弱くないよ。
 前よりも断然強くなったよ。

 護りたいものも 帰りたい場所も 出来たよ。

「ああ、知っている。だから尚更、もう戻れんだろう」

 ――…?

「一度得たぬくもりは離しがたいだろう。
 一度知った優しさは忘れがたいだろう。
 …違うか?」

 ――…ッ!

 だ、誰も離れたりなんてしない…。
 優しさもぬくもりも消えたりなんてしない!

「今はそうだとしても、先はわからんだろう」

 …辰伶、なんでそんないじわる言うの。

「意地悪ではない。事実を述べているだけだ」

 ………辰伶、ひどい。ひどい。ひどいよ。

 唇を噛み締めて、涙を堪えていると、辰伶はオレを抱きしめた。

 突き飛ばそうと思ったけど、
 腕の温かさと、聞こえる心音の優しさが、オレの動けなくする。

 ――…駄目ッ!嫌だ!

 そう思うのに、その感触を受け入れてしまった。

 こんな優しさはひどい。

「安心しろ。俺は傍に居る」

 辰伶の言葉と、壊れ物を扱うようにそっと触れてくる手のひらは、
 残酷さと優しさが同居していて、オレを縛り付け、動けなくさせた。



2005.08.28

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