縁側から外を眺めていた。
 さくさくさくっ。螢惑が雪を踏みしめる。
 高下駄に素足なんて見ている此方のほうが寒い。
 しかし螢惑は俺が言って、その場から移動するような、ましてやワザワザ防寒してくるような性格でもない。
 知っているので仕方ない。
 部屋の奥に行き、マフラーを手に戻ってくると、螢惑はいつの間にかしゃがみ込んでいた。
 雪をじーっと凝視している螢惑。
 珍しいことに、考え事でもしているらしい。
 明日雪が降るな、と思ったが、もう降っているじゃないか、と思い直し。
 金色の頭を目掛け、マフラーをほうった。
 ふわふわっ。そしてぽすっ。頭に乗っかったマフラーに気付いて、琥珀の眸が此方を見上げてきた。

 「風邪をひくぞ」
 「辰伶は馬鹿だから大丈夫だと思う」

 ぴきっ。額に青筋。

 「俺のことではないっ!」
 「うんうん、オレも半分はお前とおんなじ血が流れてるみたいだし、風邪ひかない」

 …そう言いたかったのか。遠回しな。
 呆れながら螢惑の横に立つ。
 冷たい風がぴゅーぴゅーと吹いた。
 うぬぬ、寒いわ。
 しばらくして、もう限界だ、と螢惑を呼ぶ。
 螢惑は先程から忙しなく動かしていた手を止め、立ち上がった。
 そうして俺の前に差し出されたのは小さな雪だるま。

 「…これは?」
 「雪だるま、見ればわかるでしょ」
 「いや、まあ、そうだが…って違うだろ!」

 俺が聞きたいことはそういうことではないわ。

 「あげる」

 しかし螢惑は人の話など聞く耳持たず (まあ、いつものことだが)
 雪だるまを勝手に、かつ強引に、俺の手のひらに移動させてきた。

 「あー寒い寒い。まあ、雪は綺麗だから水より好きだけど」

 そんなことを言いながら部屋に戻っていく螢惑。
 おい、待て。これ、どうしろ、と…。
 2秒ほど雪だるまと睨み合い。
 すると螢惑が背を向けたまま、辰伶、と小さく呼んだ。

 「なんだ?」

 問い掛ければ、

 「わざわざ風上に立ってくれてありがと」

 なんだ気付かれていたのか。
 妙に照れ臭くなり、すこし頬が熱くなった。

 「あと…」

 螢惑が背中を向けていて良かった、などと思っていると、
 お礼の言葉には、まだ続きがあったらしい。

 「あと?」

 半端なところで言葉を切った螢惑に続きを促す。

 「たんじょうび、おめでと」

 先程のお礼以上に思い掛けない言葉。
 螢惑の背をぽかん、と見つめて3秒。
 そうして手のひらの雪だるまに視線を移し、今度は胸の奥が熱くなった。



2006.02.11
(3日フライング…)

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