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風道
さらさら、さらさらと、崩れていく体。 この状況は、この場にいる者たちから見れば、私が消えていくということになるのだろう。 でも、それは私から見ると、違うことになる。 私が消えるということは、私の前からあなたが消えるということだ。 私の全てが崩れ、この目は無くなる。 粉となった私を風が浚う。 この瞳が、あなたを移すことは、もうない。 そう思うと、胸に奥に、淋しいという気持ちが生まれた。 半分以上崩れ去ってしまった体を支えるため、吹雪の肩を掴む。 確かに、伝う温もり。 手が無くなるということは、この温かさに触れることもなくなるということ。 それでも今、吹雪があたたかいと言うことに、今度は悦びを感じた。 この温もりは失われない。あなたは大丈夫だ。私の心の臓があなたを生かす。 「ひ…ひしぎ……!!」 吹雪、なんて顔をしているんですか…。 あなたらしくもないと、この場にいる者たちは思うでしょうね。 ほんとうは誰よりも優しい人なのに、それを知って居る者は、皆、亡くなった。 そして私にも、もう時間が無いようです。 真摯に私を見つめて、生きろ、とまっすぐに言ってくれた吹雪。 今度は私が、あなたに同じ想いを届ける番だ。 からっぽの私に、生き抜く場所を選び取る意志を与えてくれたあなたに、柔らかな幸いが訪れることを、ただ願う。 そして今告げる言葉が、この先あなたに負わせてしまう哀しみを少しでも軽くしてくれることを、せつに願った。 「ありがとう、吹雪…」 さらさら、さらさら、と風が吹く。それに浚われ、消えていく。 柔らかな風は、友の死を悼む人の頬を慰めるように撫で、通り過ぎていった。 風道には、友の隣で生き抜いたかの者の想いが、色濃く残っていた。 END
追悼。誕生日なのに… (涙) ほんとうはお祝いを…と思ったのですが、無理でした。 |